【特集】日本周辺の「ラグビーボール状UAP」は結局なんだったのか 公開映像の限界を突いた新論文
米国防総省の公開資料には、2024年にインド太平洋軍が日本周辺で捉えた楕円形の赤外線映像が含まれています。この「日本のUAP」の正体は分かるのか。2026年8月12日に公開された解析論文は、いま出ている映像だけでは速度すら求められないと結論づけました。日本国内の体制づくりとあわせて整理します。
米国防総省(DoW)は2026年5月8日、大統領令に基づくUAP資料公開プロジェクト「PURSUE」の第1弾として、専用サイト war.gov/UFO で161〜162点の資料を公開しました。内訳はPDF文書120点、動画28本、画像14点とされ、1969年のアポロ12号が月面付近で撮影したものから2026年の事案まで幅があります。この第1弾の中に、日本の報道各社が一斉に取り上げた事案が含まれていました。日本周辺で記録された未確認物体の映像です。
2024年、インド太平洋軍が捉えた「ラグビーボール状」の物体
公開資料によると、この事案は2024年、米インド太平洋軍が米軍プラットフォーム搭載の赤外線センサーで東シナ海上空を記録したものです(原資料ID:DOW-UAP-PR046)。映像はわずか9秒。AARO(全領域異常解決室)の描写によれば、センサーはラグビーボール状の本体に3本の放射状の突起を持つコントラスト領域に焦点を合わせており、突起のうち1本は垂直方向、残る2本は本体の長軸に対して45度下向きに伸びていたとされます。報告者による口頭・書面の説明は一切添えられておらず、大きさ・速度・軌跡といったパラメーターも記載がありません。この映像は本サイトの「米国防総省UAP公開映像アーカイブ」で日本語解説つきに実際に視聴できます。
なお、赤外線映像では機体の形状よりもエンジンや排気の熱源の分布が強く出るため、見えている「突起」が構造物とは限りません。AARO自身もこの描写を「情報提供のみを目的とするもの」とし、分析上の判断ではないと明記しています。同じ第1弾には、2023年に日本上空で記録された3つの光点が隊列を崩さず約2分間映り続ける赤外線映像も含まれており、木原稔官房長官は2026年5月11日の記者会見で「公表された映像は確認した」としたうえで「まだ初見なので、よく分析していきたい」と述べています。
そもそも米国防総省のAARO(全領域異常解決室)は、1996年から2023年までの報告傾向をまとめた分析で、西日本から中国にかけての一帯をUAP目撃の「ホットスポット」と位置づけていました。日本周辺は、米側の統計上もともと事案が集中している地域だということになります。
新論文「今の映像では速度すら出せない」
その映像から何が読み取れるのか。天文学者のジェイコブ・ハック=ミスラ氏とラビ・コッパラプ氏は2026年8月12日、PURSUEで公開されたセンサー映像112本すべてを解析した論文をarXivに投稿しました(arXiv:2608.12445)。結論は厳しいものです。「現状のPURSUEのセンサー映像は、未解明事案を解決することも、異常な速度を示すこともできない」。
映像内で物体が動く速さは「1フレームあたり何ピクセル」という形で測れます。しかし、それを時速や音速に換算するには、(1)物体までの距離、(2)撮影している機体自身の速度、(3)物体の進路と観測者との角度、(4)カメラの画角――の4つが必要です。著者らは、112本のうちこの4つがそろっている映像は1本もないと指摘します。画面に出るはずの方位・仰角のテレメトリーは全編で黒塗りか非表示、機体の速度もレーダーによる距離情報も添えられていません。
最も条件が良かったのは、角度目盛りが画面に残っていた赤外線映像「DOW-UAP-PR113」でした。著者らは目盛りからカメラの画角を約54度と復元し、物体が約0.1秒間に1フレームあたり142ピクセル動いたこと、角速度が毎秒2.10ラジアンであることまでは求めています。それでもなお、「センサーのすぐそばを横切った鳥」と「1キロ先をマッハ5で飛ぶ大型の機体」を区別できないといいます。角速度が同じでも、距離が分からなければ実際の速度は決まらないためです。
例外的に数字が出たのが「DOW-UAP-PR149」で、画面内に大きさの分かる艦船が写り込んでいたため、それを物差しに相対速度を見積もることができました。物体は1秒あたり艦の長さの0.657〜0.689倍を移動しており、相対速度は毎秒99〜132メートル(およそマッハ0.3〜0.4)。ただし距離比が不明なため「上限値」にとどまります。逆に言えば、この事案に関しては極端な速度は出ていないことになります。
著者らは、映像を追加公開する際にあわせて出すべきものとして、(1)飛行記録に残っている自機の速度、(2)画角と視線方向を示すセンサーのメタデータ、(3)距離の記録またはレーダー航跡――の3点を挙げました。既に存在するはずのこれらを添えるだけで、映像の物体が本当に異常な運動をしていたのかを判定できるようになる、という主張です。日本周辺の楕円体についても、位置と併せてこれらが黒塗りのままである限り、「未確認」という以上のことは言えません。
日本側の体制づくりは提言の段階が続く
日本国内では、2024年6月に超党派の「安全保障から考える未確認異常現象解明議員連盟」(通称・UFO議連)が発足しました。元防衛相の浜田靖一氏が会長を務め、80人を超える議員が参加。発足時、浜田氏は「分からないものを分からないままにして目をつぶり続けるのは極めて無責任だ」と述べています。中国のSNSに海上自衛隊の護衛艦を撮影したとみられるドローン映像が出回った件や、日本上空で確認された気球の件が背景にありました。
議連は2025年5月16日、中谷元防衛相に対し、防衛省内にUAPの情報収集・調査・分析を担う専門部署を立ち上げるよう提言。国民への情報公開と、国会への定期的な進捗報告も求めました。さらに2026年5月28日には木原稔官房長官に対し、2025年7月に佐賀県の玄海原発上空で報告された不審な光の目撃事案を挙げ、UAPへの対応を防衛省だけの問題ではなく政府横断の危機管理課題として扱い、情報を内閣官房に一元化するよう提言しています。
いずれも提言の段階で、米国のAAROに相当する常設の専門組織は日本にまだ設けられていません。米側から公開された映像を分析するにも、日本国内で報告を受け止めて記録に残すにも、受け皿となる仕組みが要る――というのが議連の一貫した主張です。
編集部注:本記事は米国防総省の公開資料、arXivの査読前プレプリント論文、および各社報道をもとに編集部が独自にまとめたものです。日本周辺の事案について日本政府が現象の正体を認定した事実はなく、米政府も一連の公開資料に地球外の存在を示す証拠は含まれていないとの立場を維持しています。
出典: arXiv:2608.12445 ほか(米国防総省 war.gov/UFO・日本経済新聞・CBS News等をもとに編集部まとめ) (本文は同出典の報道内容を編集部が要約したものです)
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